朱は名前に良くない?7つの否定的意見とじっくり向き合った
「朱」という漢字は、美しく鮮やかな赤色を表す言葉です。
古来より神聖な色とされ、鳥居や印鑑など、清らかさや力を象徴する場面で用いられてきました。
しかし、名前に使うとなると、複数の否定的な声も少なくありません。
しかし、本当に「朱」は名前にふさわしくないのでしょうか?
本記事では、「朱」にまつわる7つの否定的な意見を一つずつ丁寧に取り上げ、それぞれの背景や誤解を紐解きながら、漢字本来の魅力や名付けでの活かし方を探っていきます。
単なる「赤」では終わらない、深く精神的な意味を持つ「朱」という漢字の真価に、じっくり向き合ってみましょう。
「朱」という漢字の意味と由来
朱という漢字は、どんな意味を持っているのか、その成立はどんなものだったかを見て参ります。
まずは、基本情報から……。
朱という漢字
部首、画数、読み方、意味などを見ていきます。
部首 | 木部(き・きへん) |
画数 | 6画 |
音読み | シュ |
訓読み | あか、あけ、あか・い |
意味 | ①茶がかったあか、のち、深い赤い色 ②朱色の顔料。水銀と硫黄の化合物(硫化水銀) ③姓の一つ |
日本語だけ | ①江戸時代の貨幣の単位 ②昔の目方の単位 |
名付け | あか、あけ、あけみ、あや |
基本情報を見る限り、悪い意味などは見当たりませんね。
①の意で、高貴な色、「夏(カ)」を代表する色と言われたそうです。
「朱門」という言葉は、上流階級の家の意味もあるのです。
②で、硫化水銀は、天然には辰砂(しんしゃ:とは、硫化水銀(HgS)を成分とする鮮紅色の鉱物)として産出します。

JJ Harrison (https://www.jjharrison.com.au/), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
辰砂
朱の初義は「深い赤色」です。
朱色(日本の伝統色)
16進表記:#eb6101
RGB:(235, 97, 1)
朱、朱紅(中国の伝統色)
16進表記:#EF454A
RGB:(239, 69, 74)
この色の名は、自然系統と人工系統の二つの由来があります。
「あか色」というのは、丹は鉱物、赤は火から発想され、紅は染色の工程に由来しますが、朱は樹木の断面から発想されました。
朱=「木(き)」+「一(横の一線)」で構成される会意文字です。
木を途中から一線で断ち切る状況を状況を暗示させる情景を示しています。
株(かぶ)の原字ですが、切り株という実体ではなく、その断面の木質部の色に焦点があるのです。
朱という漢字のイメージ
「朱」という漢字は、鮮やかで明るい赤色を表す文字として古代から親しまれてきました。
その色は単なる赤ではなく、神聖さや高貴さ、清めの力を象徴します。
日本では、神社の鳥居や朱印に用いられ、邪気を払い、祝福や再生を願う意味を持つ色として重要視されてきました。
また、印章や漆器の装飾にも使われ、権威や美を表す象徴でもあります。
さらに、中国の古代文献では、朱砂や丹と呼ばれる赤色鉱石が、護符や祭祀、長生き・不死の象徴として扱われていたことが記録されており、文化的・歴史的にも高い価値を持つ色といえます。
名付けの場面で「朱」を用いる場合、鮮やかで明るい色彩のイメージだけでなく、生命力、浄化、幸福の象徴としての意味も込められるため、非常にポジティブな選択です。
「朱」は力強くも清らかで、美しい色彩と深い象徴性を兼ね備えた漢字として、名付けに十分ふさわしい文字と言えます。
朱に対する否定的意見
上述したように、朱という漢字は、その意味や成り立ち、漢字のイメージを見ても悪いモノはなかったように思います。
しかし、一方で、朱に対する否定的な意見があることも事実です。
ここでは、そんな、朱に対する否定的意見を取出し、その内容が正しいのかを見ていきたいと思います。
否定的意見 | 60爺の寸評 |
---|---|
一部の辞書で「背が低い人」との意があるため | ここで言っている内容は、俗説か誤伝に基づくもので単純な誤りです |
キラキラネームになる | 自分で勝手な読みを作らない限り、この問題は起こりません |
朱の由来は「切り株」で縁起が悪い | 誤解に近い説で信頼できる内容ではありません |
朱に交われば赤くなるという悪い諺がある | この諺が悪いということ自体が誤りです |
朱を入れるという否定的表現がある | この表現は、誤りを正し、より良い形へ整えるという「改善」や「導き」の象徴です |
朱は血のように赤いから | 「朱」は血を連想させるどころか、生命を守り、清める色です |
滅ぼすの意味を持つ「誅」と同じ音だから | 音が同じというだけで漢字の意味や字形を否定するのは大きな間違いです |
7つの否定的意見が出てきました。
ザッと見た限り、漢字の印象や諺を正確に理解していない意見が多かったような印象です。
その内容を、もう少し、細かく見ていきましょう。
一部の辞書で「背が低い人」との意があるため
信頼できる古語・漢字辞典で「朱」が「背が低い人」を意味するという記述は確認できません。
そのような意味が載っているという主張は、俗説か誤伝に基づくものと見られます。
詳しく確認したところ、にんべんに朱の「侏」を念頭に置いているようです。
「侏」は「にんべん」に「朱」で構成され、「背が低い」「小さい」という意味をもつ人物描写の語です。
これは『説文解字』にも「侏、小人なり」とあり、身体的特徴を表す言葉でした。
一方、「朱」は「赤」や「神聖な色」「清め」を意味する色彩の字で、人に関する蔑称的な意味は一切持ちません。
ところが、この二つの字が形も音も似ているため、「侏(ちゅう)」の意味を「朱(しゅ)」に誤って重ねて語る俗説が一部で広まったのではないでしょうか。
つまり、「朱=背が低い人」というのは完全な取り違えにすぎません。
信頼できる辞典や古典のいずれを見ても、朱そのものにそのような意味は存在しません。
名付けの議論に持ち出すのは、言語学的にも文化的にも筋違いと言えるでしょう。
キラキラネームになる
このシリーズで度々言っていますが、特定の漢字を使うとキラキラネームになるのではなく、漢字にない読みを勝手に作るからです。
ですから、朱であっても、「朱志香(ジェシカ)」のように、外国の名前を無理やり当て字的に名付けるとキラキラネームになってしまいます。
朱は素敵な漢字ですので、この漢字の持っている読みを逸脱しない範囲で良い名前を付けてください。
キラキラネームは昨今、親の知性まで疑われますから……。
朱の由来は「切り株」で縁起が悪い
「朱」という字の成り立ちを「切り株」と捉えて不吉とするのは誤解に近い説です。
上記の基本情報で述べたように、朱=「木(き)」+「一(横の一線)」で構成されるのですが、切り株という実体ではなく、その断面の木質部の色に焦点があるのです。
古代中国では、朱砂(しゅしゃ)と呼ばれる赤い鉱石や木の樹脂が聖なる色の源とされ、祭祀や護符に使われました。
つまり、「朱」は、滅びではなく「生命の循環」「浄化」「守護」を象徴する漢字なのです。
語源の一部だけを切り取って不吉とするのは本来の文化的背景を見誤っており、むしろ人の名にふさわしい神聖な意味をもっています。
朱に交われば赤くなるという悪い諺がある
「朱に交われば赤くなる」は、もともと「環境によって人は良くも悪くも変わる」という教訓を表すことわざであり、「朱=悪いもの」という意味ではありません。
むしろ、「朱」は善良で清らかなものの象徴として使われています。
朱に染まるとは、明るく美しい色に染まることを指すのです。
この諺を理由に「朱」を避けるのは、文意の理解を誤っています。
古代より朱は神聖・高貴・生命の象徴であり、悪を払う護符の色でもありました。
つまり、この漢字は、人の心を明るく照らし、良き影響をもたらす存在を意味します。
ですから、「朱」を名に選ぶことは、周囲に良い影響を与える人になってほしいという前向きな願いを託す行為となります。
朱を入れるという否定的表現がある
「朱を入れる」という表現は、赤ペンで訂正や採点を行う行為を指すだけで、もともと否定的な意味ではありません。
むしろ、誤りを正し、より良い形へ整えるという「改善」や「導き」の象徴です。
これを「悪いイメージ」と決めつけるのは、言葉の本来の機能を理解していない短絡的な解釈です。
そもそも、この慣用句は近代以降の文房具文化の産物であり、漢字「朱」の本義である「聖なる赤」「生命の色」とは何の関係もありません。
名付けの世界に文具の比喩を持ち込んで不吉とするなど、言葉に対する敬意を欠いた発想です。
「朱」は直す色ではなく、守る・祝う色なのです。
血のように赤いから
「朱」を血の色と結びつけて不吉とするのは、表層的な印象に過ぎません。
実際の「朱」は、血の赤とは異なる明るく温かみのある色で、古来より神聖・生命・祝福の象徴として用いられてきました。
神社の鳥居や朱印に「朱」が使われるのも、邪気を払い、再生を願う意味があるからです。
つまり、「朱」は血を連想させるどころか、生命を守り、清める色なのです。
名前に「朱」を選ぶことは、強さや明るさ、そして生命の尊さを願う美しい選択であり、迷信的なイメージで避ける理由はどこにもありません。
滅ぼすの意味を持つ「誅」と同じ音だから
音が同じというだけで漢字の意味や字形を否定するのは大きな間違いです。
同音異義語が多い日本語では、書かれた字こそが意味を伝えます。
「誅」は処罰を示す漢字ですが、「朱」は古来から神聖・護符・吉祥の色で、印章や神社に用いられてきた漢字で、全く別の文字です。
名付けは字義・字形・由来・願いを総合して決めるべきで、発音の偶然で忌避するのは合理性に欠け偏見に近い判断です。
より適切に判断するなら、漢字の由来と意図を踏まえて検討すべきです。
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朱を名前に付ける際のポイント
「朱」という漢字を名づけに用いる際には、その象徴性の強さと文化的背景を踏まえて選ぶことが重要です。
朱は古来より「神聖な色」とされ、神社の鳥居や祭具、朱印などに使われてきました。
これは、朱が「魔除け」「清め」「生命力の再生」を象徴する色であるためです。
また、朱は「赤」よりも落ち着いたイメージで、温かく内面に宿る強さを表している点も魅力の一つでしょう。
以上の内容から、次のようなさまざまな願いや想いを込められます。
- 伝統を感じさせる落ち着いた人に
- 人を癒すことのできる包容力のある人に
- 周りを明るくする子に
いくつか、朱を使った名前の例を挙げておきます。
- 男の子:朱羽(しゅう)、朱登(あやと)、朱馬(しゅうま)、朱敏(あけとし)
- 女の子:朱莉(あかり)、朱音(あかね)、朱香(あやか)、杏朱(あんじゅ)
基本、女の子向けの漢字かと思いますが、男の子でも違和感はないですね。
朱が名前につく有名人
朱が名前に入っている有名人を一覧にしました。
有名人 | 読み | 職業 |
---|---|---|
小幡朱里 | オバタジュリ | 俳優 |
佐久間朱莉 | サクマシュリ | プロゴルファー |
朱里 | シュリ | プロレスラー |
浜田朱里 | ハマダジュリ | 元女優・元アイドル歌手 |
藤波朱理 | フジナミアカリ | 女子レスリング選手 |
マッハ文朱 | マッハフミアケ | 女優、タレント、歌手、元女子プロレスラー |
三浦朱門 | ミウラシュモン | 小説家 |
吉田朱里 | ヨシダアカリ | タレント、元アイドル |
読み方は、「シュ」×3、「ジュ」×2、「アカ」×2、「あけ」×1でした。
読み方が多い漢字なのが分かります。
60爺は、古い人間なので、マッハ文朱には懐かしさを感じますね。
最後に
「朱」は古くから神聖な色として崇められ、清めや再生、生命の循環を象徴してきた力強い漢字ですが、名前に良くない噂があると聞いて立ち上がりました。
「朱」の基本情報及びイメージから始めましたが、特に問題はありません。
こんな「朱」に対する否定的意見、なんと7つも上がりましたが、内容を除いてみると、はっきり言って、陳腐な意見が目立ちました。
それぞれについて、論理的に見てきましたが、納得いく意見は少なかったと感じました。
参考
上級漢和辞典 漢字源
※気づけば「この漢字は名前に良くないのか」の記事も増えてきました
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